Murmur...

アラサーといいたくないけど徐々に30の扉が見えてきている女子が好きな音楽を中心にまとまった言葉を語りたいときに語る場所。

コンマ2秒の未来へ現在を切り開いていけ!

―LINE/スキマスイッチ

 

「お金で買えるものと 買えないもののはなし」をしようと思ったら、

この歌詞が浮かんできた。

 

* * *

 

「苦労は買ってでもしろ」

とか、社会人なりたての頃にはよく言われた。

自分の時間や身を削ってまで苦労はしたくないな、とわたしは思った。

上の世代の人が言うそれを、「はいそうですね」と

素直に受け取れないわたしは、ひねくれてるのだなとも思ったし、

こういうところが「ゆとり世代」と言われる所以なのかなと思ったりもした。

 

わたしの社会人人生のスタートは、CMの制作会社からだった。

まだ今ほどうるさく労働時間のことを言われる前だったから、

残業時間の上限なんてなかったし、わたしがやることがなくなってしまっても、

それはわたしの力量不足でできる仕事がないのが悪いので、

先輩のそばについてただ仕事を見るだけのために

何度も終電を逃したりもした。

むしろ勉強してるのに金をもらえるなんていいご身分だな、

なんて言われたりもした。

たしかに、今までは学校に通って勉強をするのには

こちらからお金を払っていたのだから、そう言われてみればそうだな、

ありがたいことなんだな、と思ってしまうぐらいには、

この世界に染められてしまっていた。

リーマンショック、311……

どうしてここまで生まれた年で仕事を探すことの難易度が変わってしまうのだろうと、

どこを恨んでもいいのかわからぬまま就職活動をしていて、

不景気なのに娯楽に近しい商売なんてアテがないよと言われ続けていたけれど、

わたしはそれでもやりたいことを曲げたくなくて、

やっとの思いで見つけた「ものを作ること」に関われる仕事だ。

ちょっとやそっとのことじゃ投げ出したりしたくない。そう思っていた。

だから、どんなに長い時間働かされようとも、

女だからってどんなに馬鹿にされたような発言をされようとも、

ヘラヘラと笑うことでごまかして生きていたし、

大した一芸にも秀でていないわたしは、そうすることでしか

そこで生きていく術を見つけられなかった。

 

「この世界は10年でやっと一人前だからね」

こんな言葉も、この世界ではよく言われていた。

この言葉を聞いたときは、わたしはまだ22歳だったと思う。

「32歳で一人前か」って、

まだ時間に対する概念がそこまでしっかりとしていなかったから

長いのか短いのかもよくわからなくて、

頑張るしかないんだなあと受け止めていた。

でも2年、3年と続けてきてわかった。

10年という年月がとてつもなく長いということに。

わたしはこの4月でやっと社会人歴8年目になったところだ。

紆余曲折、2度の転職を経て、今の会社ではすっかり

中堅社員的なポジションで仕事をしているけれど、

もし最初の会社にそのままいたら、あの時言われた言葉から考えると

まだ一人前にすらなれちゃいないんだと思う。

 

そもそも、一人前って何なのだろう?

自分で仕事を取ってこれること?

人に指示されなくても、自分の判断で動けるようになること?

知らないことがなくなること?

そのどれもができる人、できている人はどこにどれぐらいいるのだろうか。

仕事にもよるかもしれないけれど、良い歳した社会人でも

できていない人だっているんじゃないだろうか。

それは時間が経てば、単純に年月を重ねたらできるようになるものなのだろうか。

わたしは、そうではないと思う。

積み重ねた「時間」よりも、その時間のなかでどのような「経験」をしてきたか。

数量的には同じ時間を過ごしていたとしても、

その時間をどのような密度で過ごしてきたか。

 

最初の話に戻るが、例えば「苦労は買ってでもしろ」と言われたとしても。

その「苦労」が自分の血となり肉となり、

(ある意味では「血」ではなく「知」なのかもしれない)

今後の自分の生き方を変えてくれたり、糧となるのであれば

買ってでもしたほうがいいのかもしれないけれど、

単純に身体的苦痛・精神的苦痛を味わうだけの「苦労」であれば、

そんな苦労、どんなにお金をもらったって、しなくていいとわたしは思う。

 

最初の会社での「苦労」は、前者後者どちらの種類のものもあった。

この頃のわたしは、「国がそう言うから」って理由だけで

月4日の休みをギリギリもらえていたという状況で、

休みの日は基本的に会社に何をしているか報告なんてしなくていいはずなのに、

休みの前日には「明日は何々をしている」と先輩に言わなきゃいけなくて。

わたしはそれがものすごく苦痛だった。

唯一の休みにストレス発散にライブに行くのにハマり始めたのもこの頃で、

次の日休めることが決まった金曜日の23時過ぎから、

それが次の出勤日までに東京に帰ってこれるのであれば

どこであろうとお構いなしにライブのチケットと

交通手段を確保するようになった。

働く時間が長かったから、(時間対賃金で考えたら割には合っていなかったけれど)

そこそこのお給料はもらっていたので、お金で買える時間は

ひたすらお金で買っていた。

とにかくお金より時間がなかったので、

思い返してみると大分県まで飛行機で5万かけてでも行ったりしていて、

本当にただのバカだったと思う。

でも、それぐらいしないと自分の時間がとれなかった。

わたしに自由はなかった。

 

ライブ中に電話が鳴ってたようで電話に出られず、

終演後に電話をかけたら、全然緊急事態じゃない

ただの「いま暇?飲みに行かない?」の呼び出しだったのに、

めちゃくちゃ怒られたこともあった。(休みの日だけど)

次の日の朝、いつもよりも少し早い時間に出社しなきゃいけなくなったと

遠征先で電話がかかってきて、今地方にいるということがバレたら、

始発の飛行機で全然余裕で間に合う時間でも

出かけていること自体を怒られたことだってあった。(休みの日だけど)

休日は「休む日」ではないのか。

さすがにわたしだって、緊急事態が起きそうな時期

そんな案件が入っている時期にはライブの遠征は控えていた。

実際に緊急時に仕事場に行けなかったというやらかしは

一度たりとも起こしていない。

地方に行ったときだって常に数時間以内に東京に帰る手段は考えていたし、

電波を発してはいけない場所以外では、常に携帯電話の着信を気にしていた。

それでもダメだった。

 

最終的に辞めた理由、辞めることを決断したきっかけは

他にもたくさんあるのだけど、じわりじわりと

わたしの心を痛めつけていたのが、この頃の出来事であることは間違いない。

休みの時間に自分の好きなことをするのを許されないこと。

自分の行動に対して、社会的にいけないことをしているわけではないのに

罵倒されること。

常に自分の生活を監視されているような気がしてしまうこと。

こんな「苦労」はどんなにお金をもらったってするべきではない。

自分が自分として送れる人生は一度きりだ。

そして、その時間には限りがある。

そんなことを考えざるを得ない経験も、この仕事をしている時にしてしまったので、

わたしは一人前になることを選ばず、見る人から見たらその道から「逃げた」。

 

こうやって書いてみると、やっぱりわたしは

「ゆとり」と言われてしまう世代の人間なのかもしれない。

でも「生きること」は何よりも大事なことだし、

わたしはそこに「安らぎ」を欠かすことはできない。

わたしは欲張りだから、そのうえで「好きなもの・こと」に囲まれて過ごしたいし、

あわよくばその「好きなもの・こと」から

「お金」を得られたら最高だなと思う。

そういう環境を得るためなら、どんな努力だってするし、

場合によっては「投資」としてお金をかけたりもする。

「苦労」だって買うと思う。

 

先述の通り、人間、生きられる時間には限りがある。

その時間を増やしたくたって、お金では買えない。

そもそも、自分に残されている時間があとどれほどなのかすら、

どれだけお金をかけても知ることはできない。

「お金で買えるもの」と「買えないもの」をきちんと分別して、

自分のなかで優先順位をつけて、

生きる道は選んでいかないといけないと思う。

たまに道を踏み外しちゃったり、時間を無駄にしてしまったなと

思うこともあるけれど、

そんな自分を悔いてその場で地団駄踏んでいる暇があったら、動くしかないのだ。

隣の人を見て羨んでいる暇があったら、

自分の手で状況を変えていくしかないのだ。

わたし自身もそういうことをしてしまっていた

無駄な時間を経験しているからこそ、なおさらそう思う。

 

* * *

 

必死で漕げ

 

死ぬまで漕げ

 

と今回のタイトルに引用させてもらった歌のなかでスキマスイッチは歌っている。

「誰かの轍は足が取られて困る」とも言っている。

自分とまったく同じ人生を送っている人なんて、誰ひとりいない。

お手本にしたい人がいたとしても、

その人と自分は同じ人生を歩んでなんていないのだから、

結局自分の道は自分で切り開くしかない。

この曲は、たまにそのことを見失いそうになるときに聞くと、

頬にビンタを食らわせてくるような、目を覚ましてくれるような、そんな曲。

スキマスイッチはわたしから見るとお兄さん世代だから、

寄り添ってくれるというよりも、背中を押してくれるようなそんなポジションのふたりだ。